正しい消化器がん検診の受け方【胃編】

正しい消化器がん検診の受け方【胃編】

「消化器がんは正しい知識を持っていることで、死亡がかなり防げるがんです。」

そうおっしゃるのは、がん研有明病院 健診センター・下部消化管内科 副医長の石岡 充彬先生。

今回は消化器がんの中でも「胃がん」をテーマに、早期発見のための正しい検査の選び方や受け方について、お医者さん目線で知ってほしいことを伺いました。

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この記事は、がん研有明病院 下部消化管内科 副医長 石岡充彬先生監修のもと作成しております。

<石岡充彬先生> 日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

日本内科学会認定内科医。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本最初のがん専門病院として設立されたがん研有明病院にて勤務。AIを活用した胃がん検知システムの研究開発に従事するなど、AIを使って全員が質の高い検査を受けられる世界を目指す活動もされている。

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<INDEX>

胃がんとピロリ菌感染の基本情報

胃がんに関しては、堀江貴文さんの書籍「ピロリ菌やばい」がかなりよくまとまっているためおすすめです。

ピロリ菌が悪者であることはご存知の方も多いと思います。このピロリ菌は、一般的な胃がんの99%に関与しています。

重要なのは、現在感染しているかではなく、生まれでから今まで一度でも感染していたことがあるか、という点です。

通常、ピロリ菌は赤ちゃん~5歳くらいまでの幼少期に感染します。昔は井戸水などからの感染が多いと言われていましたが、上下水道の整備が進んだ現在では、このような感染経路は減っていて、ご両親やおじいちゃん、おばあちゃんなど身近な大人からの感染が80%を占めるとされています。[1]

ピロリ菌に感染するのは、胃の中で菌を飼っている状態。

菌が胃の中を少しずつ荒らしていきます。

胃が荒れていく(=萎縮していく)のは、胃の出口から。だんだん入り口にかけてダメージが進みます。

ピロリ菌を除菌すると荒れていく変化(萎縮の進行)はストップしますが、一度荒れてしまった部分はなかなか元通りには戻りません。

イメージとしては、火事になった家を想像してみてください。

すぐに火を消せれば、ダメージはほとんどなくて済みます。火が燃え広がってから消化すると、火はおさまりますが、燃えてしまった場所は戻りません。これと同じことが胃の中で起きています。

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そのため、少しでもダメージが少ないうちに除菌するのが重要です。今では中学生の段階からピロリ菌検査をする自治体も増えています。

ピロリ菌感染により荒れた部分の広さによって、胃がんになるリスクが変わってきます。

出典:石岡充彬先生のYOBO-LABO勉強会動画より
出典:石岡充彬先生のYOBO-LABO勉強会動画より

除菌をしたら一安心ではなく、一度でも感染した人は定期的な検査をしましょう。

定期検査でおすすめなのは内視鏡一択

厚生労働省の指針では、定期検査は、50歳以上を対象とした2年に1度の胃透視検査(バリウム)または内視鏡検査(胃カメラ)。

おさえておきたいのは、この2つの検査により得られる効果は同じではないことです。

これらの検査を比較した韓国での最近の研究によると、5年間で1度でも内視鏡検査した人の死亡率減少は47%。一方、バリウムでの検査は2%しか下がりませんでした。[2]

出典:石岡充彬先生のYOBO-LABO勉強会動画より
出典:石岡充彬先生のYOBO-LABO勉強会動画より

2015年までは、日本では住民検診や職場検診では、バリウム検査しか認められていませんでした。その名残で、今でもバリウム検査を受けてらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。

2015年以降は、胃カメラによる対策型胃内視鏡検診も認められ、普及しつつあります。

検査による予防の効果が示すように、検査方法は内視鏡検査一択だとわかります。少なくとも、医療従事者で胃カメラではなくバリウムを検査方法として選んでいる人は知っている限りでは見たことはありません。

胃カメラ検査によるメリットは他にもあり、バリウムでは見つからないような咽頭や食道、十二指腸の腫瘍や病気についても同時に検査できることです。

でも現状の医療現場には、バリウム検査を受けている全員が内視鏡検査を受けるキャパシティはありません。今後は、より胃がんのリスクの高い人に対象を絞るなどしながら、全体が胃カメラでの検査に移行していくはずです。

この記事を読んでくださった方は、ぜひバリウムではなく内視鏡検査を受けてみてください。

ピロリ菌陰性なら胃カメラは不要?

ピロリ菌陰性でも胃が萎縮している場合があります。大きく分けると次の4つの理由です。

  1. 偽陰性
  2. 自然除菌、偶然除菌
  3. ピロリ菌以外の胃炎
  4. 自己免疫性胃炎

順に解説していきます。

1. 偽陰性について

検査結果が100%正しいとは限りません。

ピロリ菌の検査は、血液、尿、便など、様々な方法があり、どれも90%くらいは正しい結果が出ます。でも、精度は100%ではないんです。

また、普段服用している薬で信頼性が変わる検査方法もあるので、そういう方は事前に医師に相談してみてください。

2. 自然除菌、偶然除菌

ピロリ菌が胃を荒らし尽くしてしまった場合、ピロリ菌は勝手にいなくなります。(=自然除菌)この状態が、胃がんリスクが最も高い、危険な状態です。ピロリ菌の検査だけでは最も低リスクの「未感染」の方と区別ができないため、内視鏡検査での状態確認が必須です。また、ペプシノゲン法を用いたABC検診も有用です。

他の病気の治療目的で飲んだ抗生剤でたまたまピロリ菌が除菌された可能性もあります。(=偶然除菌)この場合、除菌されるまでの間に胃へのダメージが発生しているかも知れません。

3. ピロリ菌以外の菌

ピロリ菌以外にも、胃に棲み着いて胃を荒らす菌がいます。

ピロリ菌は「ヘリコバクター・ピロリ」が正式名称で、ヘリコバクター属という菌の仲間の一種です。ヘリコバクター属にはピロリ菌以外にも胃を荒らす似たような菌がいるのですが、これらの菌はピロリ菌を対象とした検査には引っかかりません。

4. 自己免疫性胃炎

菌の感染とは関係なく胃の萎縮が起こるものです。胃の出口から萎縮を起こすピロリ菌とは反対に、胃の入り口から萎縮が起こります。(逆萎縮)

通常のカメラの見え方と異なるため、見慣れた医師でないと診断が難しく、検査を受けていても見逃されているケースもあります。

これらの可能性を考えると、ピロリ菌検査結果が陰性でも、必ずしも胃がんのリスクが低いとはいえないため、一度はカメラで胃の中の状態をチェックすることをおすすめします。

胃カメラは口と鼻、どっちから入れるのがいい?

推奨するのは口からのカメラです。

鼻からのカメラが楽だと感じる方もいて、それは主に嘔吐反射とカメラの太さという2つの理由からです。

胃カメラ検査は、5〜10分くらい異物を突っ込まれた状態のため、嘔吐反射が強い方は苦しいと感じるかも知れません。この嘔吐反射は主に舌の付け根の部分にカメラが当たることで引き起こされますが、鼻からのカメラではこの嘔吐反射が起こる箇所を通らないので、楽だと感じる方もいます。

カメラの太さも異なり、口カメラは直径約10mm、鼻カメラは約5mmです。同じ異物が入る場合も、細い方が負担は軽く感じます。

一方でその主なデメリットは画質。カメラが細いぶん、搭載できるカメラのスペックは落ちます。

出典:石岡充彬先生のYOBO-LABO勉強会動画より
出典:石岡充彬先生のYOBO-LABO勉強会動画より

あと10年もしたら、画質は変わらないくらいにカメラのスペックが進化しているかも知れませんが、現状は雲泥の差があると言わざるを得ません。

カメラの画質が今よりさらに劣る時期の調査結果ではあるものの、2cm以下の早期胃がんのうち、約3分の1は鼻カメラではわからなかった、という報告もあるくらいです。[3]

より精度の高い胃カメラ検査を求めるなら、口からのカメラをおすすめします。

病気を見逃されるのはいやだけど辛いのもいや、という方は、鎮静剤を使用した口からの内視鏡検査をおすすめします。鎮静剤は静脈注射で投与し、1分くらいで眠ってしまいます。検査の間だけ作用し、気づいたらあっという間に検査が終了している、というものです。

内視鏡検査の未来

医師によって診断能力の差は出てしまうのは事実です。このような現状に対し、医師や地域などにかかわらず、どこで検査を受けても、全員が平等に一流の検査を受けられる世界を目指し、内視鏡診断をサポートするAIの開発を世界に先駆けて進めています。[4, 5]

皆さまがより良い検査を受けられる日が一日も早く来ることを目指して日々頑張っています。

先生に聞いてみよう!

消化器がんの検査で、大腸カメラと胃カメラ、同じ日に受けることはできますか?

同日には検査できない施設が多いですが、一部の医療機関やクリニックでは、1日で両方受けられるところもあります。

一番検査を受けて欲しい働き盛りの世代の方は、お仕事でなかなか時間が取れない方も多いので、こういった施設を活用していただくこともおすすめします。

保険診療、自費診療問わず、対応してくれるところは1日で可能です。

過去にピロリ菌陽性でした。すでに除菌済みですが、年齢にかかわらず、定期検査は50歳になる前にも毎年受けた方がいいのでしょうか?

胃の荒れ具合(萎縮の程度)によってがん化のリスクが異なります。

一般的には高齢になるにつれて、がんの発生リスクも高まりますが、それぞれの胃の状態やリスクに応じた検査間隔の設定が必要です。当院の健診センターでは除菌後の方は一律、1年に1回の胃カメラをおすすめしています。

胃カメラ検査でピロリ菌陰性が確認できました。その場合の定期検査は、50歳になってからバリウムで良いのでしょうか?

ピロリ菌の検査で「陰性」が確認され、かつ内視鏡検査でも胃の萎縮がなく「ピロリ菌未感染」の状態の場合、一般的な胃がんのリスクは極めて低いと考えられます。但し、近年ではピロリ菌感染者の低下に伴って相対的に「ピロリ菌陰性胃がん」が増加傾向にあり注目されています。「ピロリ菌陰性胃がん」は特に微細な胃粘膜の変化を示すのみで、バリウム検査での発見は極めて困難と考えられますので、胃カメラの検査を推奨します。

またピロリ菌未感染者の検査開始時期や検査間隔には決まりがありませんが、個人的には40歳以降の2年毎程度の内視鏡検査をお勧めしています。特に飲酒・喫煙習慣のある方や、糖尿病などの併存疾患のある方はより注意が必要です。

まとめ

  • 早いうちにピロリ菌の検査・除菌をしましょう。
  • ピロリ菌陰性でも、一度は胃カメラで状態をチェックしましょう。
  • 胃カメラ検査は、カメラの画質が良い口からのカメラをおすすめします。
  • 全員がより質の高い内視鏡検査を受けられる未来を目指して、内視鏡検査をサポートするAIの開発も進められています。

石岡先生、ありがとうございました!!

先生には大腸カメラ検査の受け方についても解説いただいています。ぜひ合わせてご覧ください。こちらの内容もとってもわかりやすいです!

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こちらの記事に記載した内容は、石岡先生のYOBO-LABO内での勉強会内容から引用させていただきました。とってもわかりやすい解説なので、もっと知りたい!という方は、ぜひ先生のnoteもご覧ください。

※上記内容は予防医療普及協会理事で医師・医学博士の鈴木英雄先生にも確認頂いた上でお届けしております。

出典

[1] 加藤元嗣ら. Helicobacter pylori感染の疫学. 日本内科学会雑誌. 2017; 106: 10-5

[2] Jun JK, et al. Effectiveness of the Korean national cancer screening program in reducing gastric cancer mortality. Gastroenterology. 2017;152:1319

[3] Hayashi Y, et al. Comparison of the diagnostic utility of the ultrathin endoscope and the conventional endoscope in early gastric cancer screening. Dig Endosc. 2009; 21: 116-21.

[4] 石岡充彬ら. AI の内視鏡検査への応用. 腫瘍内科. 2021; 27: 102-7.

[5] Ishioka M, et al. Detecting gastric cancer from video images using convolutional neural networks. Dig Endosc. 2019; 31:e34-e35.

【編集・構成 倉光めぐみ】

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