正しい消化器がん検診の受け方【大腸編】

正しい消化器がん検診の受け方【大腸編】

「消化器がんは正しい知識を持っていることで、死亡がかなり防げるがんです。」

そうおっしゃるのは、がん研有明病院 健診センター・下部消化管内科 副医長の石岡 充彬先生。

今回は消化器がんの中でも、日本における罹患者数No.1の「大腸がん」をテーマに、早期発見のための正しい検査の選び方やお医者さん目線で伝えたい誤解について伺いました。

大腸がんの検査として、健康診断などでは便の中の血液を調べる便潜血検査が広く使われています。この検査は、大腸がんになる前の状態の異常(=ポリープ)を検知できると思われているかも知れませんが、これは誤解だそうです。

便潜血検査でほぼ確実に検知できるのは、大腸がんが進んでしまった状態の"進行がん"。

大腸がんを引き起こすタネであるポリープの検出は、実は10〜30%に留まるそうです。

ポリープの段階から大腸がんを予防する場合、有効なのは内視鏡検査。

ここでは、内視鏡検査と便潜血検査に関する正しい知識と選択の仕方、検査を受ける際のコツなど、石岡先生の解説をお届けします。

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この記事は、がん研有明病院 下部消化管内科 副医長 石岡充彬先生監修のもと作成しております。

<石岡充彬先生> 日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

日本内科学会認定内科医。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本最初のがん専門病院として設立されたがん研有明病院にて勤務。AIを活用した胃がん検知システムの研究開発に従事するなど、AIを使って全員が質の高い検査を受けられる世界を目指す活動もされている。

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<INDEX>

大腸がんとその検査方法

大腸がんは日本において罹患数No.1。最もありふれたがんで、今や10人に1人が生きているうちに大腸がんに罹患する計算になります。 [1]

大腸がんができ始める年齢も早く、30代から徐々に罹患者数が増え始めるのが特徴です。

検診は2種類。便潜血検査と大腸カメラ(内視鏡検査)です。

これらの検査の違いをしっかり理解して選びましょう。

大腸がんはそもそもどうやってできるのか

いくつかパターンがありますが、一番多いとされるのは、ポリープのがん化です。腺腫と呼ばれる良性ポリープが育ってがんになります。写真で見るとこのようなイメージです。

出典:石岡充彬先生のnote「正しい消化器がん検診の受け方(大腸編)~便潜血検査受けてるだけでホントに大丈夫?〜」より。一番左が先生が33歳だった時にできたポリープ。
出典:石岡充彬先生のnote「正しい消化器がん検診の受け方(大腸編)~便潜血検査受けてるだけでホントに大丈夫?〜」より。一番左が先生が33歳だった時にできたポリープ。

がんになる前段階のポリープの状態で切除できれば、大腸がんになるリスクは70〜80%減らすことができます。[2 & 3]

できたてのポリープ(低異形度腺腫)も放っておくと、がんの一歩手前(高異形度腺腫)になります。さらに放っておいてしまうと、早期大腸がん、そして進行大腸がんへと進んでいきます。

がんは進行するにつれて根っこが深くなりますが、下の図のように根の浅い「早期がん」の一部までは、内視鏡での治療が可能です。

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進行大腸がんまで進んでしまうと外科手術や抗がん剤治療が必要になります。がんができる場所によっては人工肛門になる場合もあります。

便潜血検査でポリープを早期発見するのは難しい

厚生労働省は、40歳になったら年に1回の便潜血検査をするよう指針を示しています。

この検査、本当に多くの人が誤解されているのですが、便潜血検査はポリープの早期発見を目的としている検査ではありません

便潜血検査で異常が検出できるのは、実は早期がんになった場合も50%程度です。

  • 進行大腸がんは約90% [4]
  • 早期大腸がんは約50% [4]
  • ポリープは約30%[4]、でき始めのポリープは10%未満 [5]

大腸がんの進行は比較的ゆっくりなので、便潜血検査を毎年繰り返し受けていれば、手遅れになる(大腸がんで命を落とす)までには見つかる確率が高いだろう、ともいえます。

便潜血検査で進行大腸がんが見つかり、大腸がんによる死亡率が減少する、という理解は正しいです。

でも便潜血検査さえ受けていればポリープが見つかり、大腸がんの発生を防げる、というのは誤解です。

便潜血検査の目的はあくまで死亡率を下げることにあります。

放っておくと命に関わるような進行がんを確実に見つけ、命を助けることが便潜血検査のミッションなのです。

何年先にがんになるかわからないポリープを見つける検査ではありません。

便潜血検査に引っ掛かったら必ず精密検査を受けてください。

便潜血検査で異常が見つかった方のうち、症状がないうちに精密検査を受けた場合と、血便や腹痛などの症状が出るまで放置してしまった場合を比較すると、死亡リスクが5倍も違います。[6]

便潜血検査のメリットは、安くて簡単に検査でき、痛みもなく、検査を受ける心理的ハードルが低いことです。40歳以上が検査を受ける最低ラインだと捉えてください。

この最低ラインでも、現状超えられているのは検査対象の40%程度に留まっています。大腸がん検診をまったく受けていない方は、せめて毎年の便潜血検査だけでも受けることから始めてみてください。

本当の"早期発見"には内視鏡検査が有効

とはいえ、みなさんが「早期発見」と聞いてイメージするのは、(外科手術や抗がん剤治療ではなく)内視鏡の治療で済む、ポリープや早期がんの段階での発見を指すのではないでしょうか。

その段階での早期発見のためには内視鏡検査を受ける必要があります。

便潜血検査では、本当の意味で早期発見にはなりません。

便潜血検査を選択された場合、重要なのは、毎年必ず受けること。そして異常が出たら精密検査を受けること。

無症状の人を内視鏡で調べると、4人に1人はポリープが見つかる、といわれており、ポリープは決して珍しいものではありません。また、大腸がんの30%には遺伝が関連しているとされ [7]、家族に大腸がんやポリープが見つかった方は特に早めに検査されることをおすすめします。

内視鏡検査では、病変を早期発見し、モノによってはその場で同時に治療までできる場合もあります。(施設によっては検査と治療を同時に行わない方針のところもあったり、モノが大きい場合などは後日の入院治療になる場合もあります。)

知識のある多くの人が内視鏡検査を受けているのは事実です。できれば、40歳までに一度は検査を受けておくといいですね。

内視鏡検査の質に影響する3つの因子

いざ検査を受ける時に検査の質に影響する因子が3つあります。

1. 検査をする人の因子

先生の腕には当然ばらつきがあります。上手な先生が理想ですが、見極めるのは難しいですね。

近年では、検査者による検査の質のばらつきを解消すべく、病変の発見をサポートするAIが開発され、一部の医療機関で取り入れられ始めています。

今後はこのような内視鏡診断をサポートする機器が普及することで、全員がよりよい検査が行えるようになることを期待しています。

2. 検査を受ける人の因子

検査を受ける時に、「いかに便をキレイにできるか」が検査精度や病変発見率に影響します

便をキレイにするには、検査前日にとる低残渣食(ていざんさしょく)という、便が残りにくい食事と、前日寝る前と検査当日の下剤が基本です。

検査前に各施設で詳細な説明が必ずありますが、検査前日1日のお食事を市販の「検査用食」に置き換えていただくのが一般的です。ご自身で食事を調整される場合は、キノコや海藻類、繊維質の野菜やタネのある果物は消化されずに腸の中に残ってしまうので、避けていただく必要があります。

普段から便秘がちな方は、便が残りやすい傾向があります。そのため、普段から飲んでいる下剤などがあれば、処方の下剤に加えて追加で数日前から自己調整いただくとよいでしょう。

便が濁った状態と無色透明なキレイな状態を比べると病変発見率は2倍も違います。[8]

便をどこまでしっかりキレイにできるか?は検査を受けるご本人が唯一できる「検査の質を上げるコツ」ですので、検査の際はぜひ無色透明の便を目指して頑張ってみてください。

3. 病変自体の因子

形が平べったいポリープもあり、一見分かりづらかったり、また前にも書いたように便がキレイにできていない場合は、便のかすに埋もれてしまう場合もあります。

また、病変の場所も影響します。大腸の中はアコーディオンのようになっているため、ヒダの裏側や腸の曲がり角など、死角になりやすい場所もあります。医師はそれがどこか把握しており、そこを丹念に調べるようにしていますが、この際にも便のキレイになり具合が影響します。

先生に聞いてみよう!

カメラは毎年受けないといけないですか?

明確な決まりはないのですが、下記を参考に検査することをおすすめします。

  • 一度検査してポリープがなかった方や、5mm以下のポリープが3個未満だった方:3年に1度
  • 1cm以上のポリープがあった方や、3個以上あった方:1年後の再検査

内視鏡検査は痛いですか?

これに関しては個人差がかなり強いのですが、私自身が検査を受けた感想としては痛くも苦しくもありませんでした。

腸の中は痛覚がありません。例えば、硬いものを食べても胃が痛くなることがないのと同じです。

もし痛みを感じるとしたら、カメラで腸の外側の膜が引き伸ばされたりした場合です。

肥満や極度の痩せ型、腹部手術による癒着(炎症のなごり)がある方、腸にカスが多い方は痛みを感じやすいことがあります。

そういった方は、検査の間のごく短い時間だけ作用する鎮静剤を使用しての検査をするのもありですね。

通常は検査後当日の軽い違和感が残ることはありますが、痛みが長く続くようなことはありません。

鎮静剤を使った検査とは何ですか?

検査している間だけ効く短時間作用型の睡眠剤のようなものを静脈注射で投与します。すると1分くらいでぱたっと寝てしまうので、あっという間に検査が終わってしまいます。

ポリープは放っておくと絶対がんになりますか?

ポリープにもいくつか種類がありますが、全体の80%を占める「腺腫」は、放っておくといずれがんになると考えられます。1年後かもしれませんし、100年後かもしれません。どのポリープがどの程度でがん化するか?を見分けることは不可能なので、ガイドライン上は6mm以上のポリープは切除することを提案されています。[9]

以前は腺腫以外のポリープはがんにならないとされていましたが、最近は他の種類のポリープ(鋸歯状病変)からのがん化が注目されています。一般的なポリープよりも見つけにくいことや、がん化した際に進行が早い可能性があるので注意が必要です。

大腸カメラと胃カメラ、同じ日に受けることはできますか?

同日には検査できない施設が多いですが、一部の医療機関やクリニックでは、1日で両方受けられるところもあります。

一番検査を受けて欲しい働き盛りの世代の方は、お仕事でなかなか時間が取れない方も多いので、こういった施設を活用していただくこともおすすめします。

保険診療、自費診療問わず、対応してくれるところは1日で可能です。

石岡先生、ありがとうございました!!

先生には胃がん検査の選び方や受け方についても解説いただいています。ぜひ合わせてご覧ください。こちらの内容もとってもわかりやすいです!

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こちらの記事に記載した内容は、石岡先生のYOBO-LABO内での勉強会、および先生のnoteから引用させていただきました。とってもわかりやすい解説なので、もっと知りたい!という方は、ぜひ先生のnoteもご覧ください。

※上記内容は予防医療普及協会理事で医師・医学博士の鈴木英雄先生にも確認頂いた上でお届けしております。

出典

[1] 国立がん研究センターがん対策情報センター. 最新がん統計. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

[2] Winawer SJ, et al. Prevention of colorectal cancer by colonoscopic polypectomy. The National Polyp Study Workgroup. N Engl J Med. 1993; 329: 1977-81.

[3] Murakami R, et al. Natural history of colorectal polyps and the effect of polypectomy on occurrence of subsequent cancer. Int J Cancer. 1990; 46: 159-64.

[4] 松田尚久ら. FIT陽性癌 vs. FIT陰性癌 (3)内視鏡医の立場から. Intestine. 2019; 23: 441-8.

[5] Chiu HM, et al. Association between early stage colon neoplasms and false - negative results from the fecal immunochemical test. Clin Gastroenterol Hepatol. 2013; 11: 832-8. e1-2.

[6] 松田一夫. FIT開発の歴史と現状 (2)FIT判定のとらえ方と取り扱い. Intestine. 2019; 23: 403-7.

[7] 大腸癌研究会. 遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2020年版. 金原出版. 2020.

[8] Sulz MC, et al. Meta-analysis of the effect of bowel preparation on adenoma detection: early adenomas affected stronger than advanced adenomas. PLoS One. 2016; 11: e0154149.

[9] 日本消化器病学会. 大腸ポリープ診療ガイドライン2020 改訂第2版. 南江堂. 2020.

【編集・構成 倉光めぐみ】

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