予防医療普及協会には、皆さまからHPVワクチンに関するたくさんのご質問が寄せられています。その中でも特に知っておきたいHPVワクチンの基礎知識について、産婦人科医の三輪先生による解説をご紹介していきます。(2021年2月9日時点の情報をもとにしています。)
この記事は、予防医療普及協会理事・産婦人科医の三輪綾子先生監修のもと作成しております。

Q. HPVワクチンにはどんなタイプがありますか?
まずHPVワクチンとは、子宮頸がんや中咽頭がん、肛門がんなどのがんや、尖圭コンジローマという厄介な性感染症の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するものです。
HPVワクチンには2価、4価、9価の3種類があります。
《ワクチンの名前》
2価HPVワクチン=サーバリックス
4価HPVワクチン=ガーダシル
9価HPVワクチン=シルガード9
※海外で売られているものは同じものでガーダシル9という名前がつけられています。
○価というのは「○種類の」という意味です。2価ワクチンであれば2種類のHPV(ヒトパピローマウイルス)を、4価ワクチンは4種類。9価は9種類のHPVをカバーします。
《ワクチンの内容》
2価:子宮頸がんの原因になる確率の高いハイリスクのHPV2種類
4価:子宮頸がんの原因になる確率の高いハイリスクのHPV2種類+性感染症の原因になるHPV2種類
9価:子宮頸がんの原因になる確率の高いハイリスクのHPV7種類+性感染症の原因になるHPV2種類
HPVは100種類以上が確認されているのですが、2価や4価で7割程度、9価であれば9割程度HPVへの感染を予防できると言われています。
ワクチンの接種は、性交渉の経験をする前(初交前)が最も効果的です。
打つ回数はどのワクチンを選んでも全て3回なので、自費で選ぶなら予防効果の高いものが良いかもしれません。価格は9価が一番高いです。
しかし「予防接種」となると国が決めているものを打つことになります。2価、4価がその対象となり国から補助がでます。小学校6年生〜高校1年生までは、この2つのタイプのHPVワクチンであればおおよそ無料で受けられます。9価の接種を希望する場合、自費になりますが医療機関で打つことができます。
ワクチンは女性だけでなく男性が打っても当然効果があります。海外では男性も積極的に接種する国もあります。それは男性においてもがんを発症するリスクが抑えられるからです(中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなど)。
Q. ワクチンはいくらで受けられますか?
3回接種 の合計で、ガーダシル、サーバリックスは約5万円、シルガード9は10万円前後のところが多いです。自費による接種なのでクリニックにより値段は異なります。
Q. ワクチンは100以上のHPV型に効果があるのですか?
現在日本で認可されているHPVワクチンは、それぞれ下記のHPV型に対して感染予防効果があります。
・シルガード9:HPV 6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58
・ガーダシル:HPV 6, 11, 16, 18
・サーバリックス:HPV 16, 18
HPVワクチンを接種していてもHPVに感染するリスクはありますし、他のHPV感染により子宮頸がんになる可能性もあるので、ワクチンを接種していても子宮頸がん検診を受ける必要があります。
ただし、HPV 16, 18型が子宮頸がんの原因の約60〜70%を占めているので、上記のワクチン接種により、子宮頸がんのリスクをかなり下げることができます。
また、『交叉免疫(クロスプロテクション)』により、上記以外の型に対する免疫を獲得することもあり、ワクチンを接種した人では、上記以外の型のHPV感染率もワクチンを接種していない人より低くなっています[1]。
Q. ワクチンは3回打たないとだめですか?
14歳までに1回目を接種したら、6〜12か月空けて2回目を打てば十分有効というのが世界的なコンセンサスです。しかし日本では3回の接種がすすめられています。承認薬として使用するのであれば、決められた回数打つことをおすすめします。
Q. 承認されたとはどういうことですか?
ワクチンが承認された=保険適応になったということではありません。
承認されたというのはあくまで「正式に日本で使って良いものになりました」ということで、打つときは自費になります。ただ小学校6年生〜高校1年生までの女子は自治体から補助が出るので実質無料で打てるようになっている、ということです。
また新しい薬が出たときの日本での流れをご説明します。
製薬会社が「この新しい薬を日本で売っていいですか?許可を下さい」と厚生労働省に申請します。その薬が安全なのか、効果はあるのかといったことを「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」という機関が審査をします。そこで「安全性はOK、効果もOK」という判断が出たら、晴れて承認薬になる、という流れです。
未承認薬というのはその承認がおりる前の状態です。
しかしその中には、海外では有効性が証明され、承認・販売されているにもかかわらず、日本では承認・販売がなされていない薬剤も含まれます。また同じ薬でも「〇〇病を治療するときには承認 (適応)がおりていても、△△病を治療するときには承認されていない」といったことがあります。これを未承認適応(適応外使用)といいます。
承認がおりていると良いことは、万が一副作用が出た場合に国の「医薬品副作用被害救済制度」というものが適用されることです。
承認がおりていない 薬剤をした場合や、薬剤の承認はおりていても使用法が認められていない場合、万が一なにかあった場合は副作用を治療するときにかかるお金(入院費、治療費その他)は自分で払うことになります。
あらゆる薬は副作用のリスクはあります。ただ、副作用が出た場合には国がその補償をしてくれるのはありがたいですよね。
サーバリックスとガーダシルは2015年に承認されていました。
しかしHPVワクチンの副反応報道の影響もあり9価HPVワクチンはなかなか承認がおりず、9価を打ちたいという人は仕方なく海外のガーダシル9を輸入して使用していました。今回の承認を機に混乱を避けるため「シルガード9」と名前を変えて流通することになるので、これからはガーダシル9ではなくシルガード9を接種しましょう。
また2021年に入って男性でもガーダシルが「肛門がん予防」として適応の承認がおりました。男性もガーダシルであれば国の保証付きで接種することができます。
HPVワクチンを接種してみようと思われた方は、「ご自身のお住まいの地区 シルガード9などのワクチン名」で検索して打てる場所を探してみてください。
シルガード9は2021年2月24日から発売されました。クリニックより申請が入ると製薬会社がそのクリニックに薬品を卸すようになります。全国に流通するまでは少し時間がかかるかもしれませんが、徐々に打てるクリニックが増えるはずです。
また、予防医療普及協会ではシルガード9が接種可能な医療機関リストを公開しているので、ぜひご活用ください。
それではみんなで、正しく知って、行動することで、防げる病気を予防していきましょう。
出典
[1] Rolando Herrero, Human Papillomavirus (HPV) Vaccines: Limited Cross-Protection against Additional HPV Types, The Journal of Infectious Diseases, Volume 199, Issue 7, 1 April 2009, Pages 919–922, https://doi.org/10.1086/597308
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【構成・編集、図表作成 倉光めぐみ】