先日Twitterでトレンド入りを果たしたピロリ菌。その正体は、胃の中で暴れ回って胃潰瘍を起こすだけじゃないんです。感染を放っておくと、胃がんを引き起こします。
年齢が高いほどピロリ菌感染率が高いとされますが、20代でも約7人に1人、30代だと約4人に1人は感染の可能性があります。[1]
ピロリ菌を除菌することで、胃がんになる確率をぐっと減らすことができます。ここでは、そんなピロリ菌感染により引き起こされる胃がんの予防についてお話ししていきます。
(ピロリ菌のTwitterトレンド入りは、2月27日放映のテレビアニメ「はたらく細胞BLACK」第10話で、凶暴な怪獣のようなピロリ菌が登場したからのようです・・・!)
この記事は、予防医療普及協会顧問で医師・医学博士の鈴木英雄先生監修のもと作成しております。
医師、医学博士。 平成6年、筑波大学医学専門学群卒業。専門は消化器内科、医学教育。平成15年に提橋氏とともに株式会社メディシス設立に関わる。平成19年から1年半、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターへ留学。令和元年から筑波大学消化器内科学准教授。内科学会認定医、消化器病学会専門医、消化器内視鏡学会専門医、がん治療認定医、ピロリ菌感染症認定医。 平成29年度より、筑波大学付属病院 つくば予防医学研究センター 副部長に就任。

<INDEX>
- 胃がんは大切な消化・栄養吸収機能に影響する怖い病気
- 胃がんの原因99%がピロリ菌感染
- 胃がんが防げる病気であることは消化器専門医には常識
- 日本でのピロリ菌感染は若い人でも油断できない
- ピロリ菌への感染有無を検査する主な方法は4パターン
- 胃にピロリ菌がいたら除菌
- 本当に除菌していいか心配な方へ
- 胃がん予防のポイントおさらい
胃がんは大切な消化・栄養吸収機能に影響する怖い病気
2019年の統計では、胃がんは男女合わせて3番目に死亡数が多いがんです。[2] アメリカの調査によると、発見が遅れた場合の5年生存率は25-28%ですが、早期に発見できた場合の5年生存率は63%まで上昇します。[3] 早期発見できれば治りやすいと言われているためです。
胃は、食べ物を強い酸で消化して栄養の吸収を補助したり、食べ物を消毒する機能を担っています。胃がんが進むと、治療は胃の一部、または全部を切除して治療します。切除された部分は再生することはありません。
胃がんにより胃の一部、または全部が切除されると、食べ物が直接腸に流れるようになります。すると、鉄分やカルシウムなどの必要な栄養素の吸収が悪くなり、貧血や骨粗しょう症などのリスクが上がります。また、消化機能の低下による下痢などが起こりやすくなります。
手術後、3〜12か月程度で体は新しい状態に慣れますが、それでも生活への影響は大きいといえます。病気自体の予防をしっかり行いたいですね。
胃がんの原因99%がピロリ菌感染
この胃がん、99%の場合は原因がわかっています。その正体は「ピロリ菌」。
これは、胃の粘膜に棲みつく細菌です。胃の中は酸性のため、菌は棲めないと考えられていましたが、この菌は、自分の周りだけアルカリ性にして生存可能。尻尾がついていて、それを高速回転させて胃の中を泳いでいます。
胃がんが防げる病気であることは消化器専門医には常識
胃がんの原因がピロリ菌の感染症であること、そしてその多くは防げるということは、消化器専門医の中では、もう20年ほど前から常識のようになっています。
WHO(世界保健機関)でも、1994年に「ピロリ菌は胃がんの原因である」と認定しており、2014年には「胃がん対策はピロリ菌除菌に重点を置くべきである」と発表しています。発がん因子は他にもありますが、基本は胃の中にピロリ菌がいて、そこに喫煙や塩分の摂り過ぎなどが加わることで、よりがんになりやすくなると考えられています。
実際、ピロリ陰性の胃がんは1%以下で、非常に稀です。
ピロリ菌が胃に長く棲み着いてると、ピロリ菌がつくり出すアンモニアや毒素が原因で胃の粘膜に炎症が起きて「慢性胃炎」を引き起こします。この「慢性胃炎」が何年も続くと、胃の粘膜の細胞が壊れてきます。
そしてだんだん「萎縮性胃炎」になって、発がん物質の影響を受けやすくなり、がんに発展してしまうのです。
ピロリ菌は、いろんな毒素を出していますが、日本や韓国、中国のピロリ菌は特に毒性が強くて、「世界で最悪の菌」といわれるくらい。実際、世界の地域別に見てみると、胃がんの発生率は東アジアが突出しています。

日本でのピロリ菌感染は若い人でも油断できない
生まれた年代別のピロリ菌感染率に関する日本国内の調査によると、下記のような結果となりました。[1]
1910年代生まれ / 60.9%
1920年代生まれ / 65.9%
1930年代生まれ / 67.4%
1940年代生まれ / 64.1%
1950年代生まれ / 59.1%
1960年代生まれ / 49.1%
1970年代生まれ / 34.9%
1980年代生まれ / 24.6%
1990年代生まれ / 15.6%
2000年代生まれ / 6.6%
高齢者ほど感染率が高いのは、感染ルートが水だといわれているからです。今の50歳以上の人が幼かった頃は上下水道が完備されていなかった時代で、ピロリ菌に感染しやすい環境でした。
上下水道が整備された今の日本では、ピロリ菌は約8割が母子感染だといわれており、まだ免疫がつく5歳頃までに、親から唾液などを通じて感染する場合もあります。
7つの質問に答える感染度診断もあるので試してみてください。
ピロリ菌への感染有無を検査する主な方法は4パターン
自分がピロリ菌に感染してるか気になってきましたか?調べる方法は、大きく分けて以下の通りです。
- 採血や採尿して抗体を調べる検査
- 検査薬を服用した後に呼気を調べる検査
- 便中の抗原を調べる検査
- 内視鏡で直接胃の粘膜を採取して調べる検査
精度が高いのは、2または3の検査です。
1は家にいながら検査できる検査キットでも調べることができる方法です。尿検査の検体を郵送してできるから、ハードルは低いかもしれません。
一般社団法人予防医療普及協会が運営する「YOBO Shop」では、ピロリ菌簡易検査キットを業界最安値の3,980円(税、送料込)で販売しています。ご自宅で簡単に調べたい方にはおすすめです。
もちろん、自治体などがやっている胃がん検診でも調べられます。気になった方はまず行動しましょう。
胃にピロリ菌がいたら除菌
ピロリ菌に感染していたら、しっかり除菌しましょう。
除菌治療は保険適用されます。治療費は数千円で、検査費を入れても1万円程度。
抗生剤2種類と胃酸を抑える薬を1週間ほど飲めば、ピロリ菌を除菌できます。一度除去してしまったら、基本的には再度感染する心配はありません。
ただ、注意して欲しいのは、除菌することで胃がんのリスクは6割ほど減らせますが、ゼロになるわけではないので、定期的に検診を受けてください。
本当に除菌していいか心配な方へ
ここまででピロリ菌がいかにダメージを与える厄介な菌かお話してきましたが、「昔からいる菌なんだから除菌したら体に良くない」という声もあるようです。
でも、ここまで読めば結果は明らかだと思います。
確かに、除菌のプロセスと結果によって発生するデメリットもないことはないです。
例えば…
- 軟便や軽い下痢・除菌時に使う抗生剤の副作用
- 蕁麻疹などの薬剤アレルギー・逆流性食道炎の発生
などが確認されています。ただ、お伝えしたいのは、ピロリ菌の除菌治療は、2000年に保険適用されて以来、数百万人以上に行われており、特別に危険な治療ではないということ。
除菌によって胃機能が正常化することにより、一時期に胃酸分泌過多が起こり、逆流性食道炎が悪化する例もあります。その場合でも、逆流性食道炎を理由に除菌を躊躇する必要がないことはガイドラインにも明記されています。
つまり、メリット>デメリット。
ピロリ菌の感染で、慢性的な胃炎に悩まされてたり、将来胃がんになるリスクがあるのに、除菌による”胃酸の正常化”で起こるリスクを恐れてるのはもったいないです。
胃がん予防のポイントおさらい
お伝えしたい、胃がん予防のポイントをまとめます。
- 胃がんの99%はピロリ菌が原因。しかも日本のピロリ菌は毒性が強い”世界最悪の菌”。
- 感染有無の検査方法は尿・血液、呼気、便、内視鏡検査の4種類。尿検査はキットを使えば自宅でもできる。
- ピロリ菌陽性だったら病院でしっかり除菌。抗生剤2種類と胃酸を抑える薬を1週間ほど飲めば除菌できる。検査費も入れて、治療にかかるお金は1万円程度。
- 除菌によって起こるデメリットは、除菌との関係性が認められていない。メリット>デメリット。がんのリスクは排除すべし。
以上です。
知ってることで防げる病気をなくしていきましょう!
一般社団法人予防医療普及協会が運営するオンラインサロン「YOBO-LABO」では、予防医療普及協会所属やYOBO-LABO所属の先生から、直接予防に関する知識を学ぶことができます。ぜひ学びたいという方や、情報を発信されたい方のご参加をお待ちしております!
出典
[1] Wang, C., Nishiyama, T., Kikuchi, S. et al. Changing trends in the prevalence of H. pylori infection in Japan (1908–2003): a systematic review and meta-regression analysis of 170,752 individuals. Sci Rep 7, 15491 (2017). https://doi.org/10.1038/s41598-017-15490-7
[2] 国立がん研究センター「がん情報サービス 最新がん統計」(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html)
[3] World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Diet, Nutrition, Physical Activity and Cancer: a Global Perspective. Continuous Update Project Expert Report 2018. Available at dietandcancerreport.org
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【文・図表作成 倉光めぐみ】