子宮頸がんの発症ピーク年齢をご存知ですか?
「がん」と聞くと、高齢になってからかかる病気をイメージされるかも知れませんが、子宮頸がんの場合、実は結婚、妊娠、出産を控える方も多い25〜44歳。
日本では、年間3万人を超える方が子宮頸がんと診断されています。そして約1万人が子宮を摘出し、約3,000人が命を落としています。[1]
女性だけが関係すると思うかもしれませんが、実は男性にも関係します。というのは子宮頸がんの原因となるウイルスが性交渉で感染するからです。
感染の原因となるのはヒトパピローマウイルス(HPV)というごくありふれたウイルス。性交渉で感染し、性交渉経験がある女性のうち50〜80%は感染する機会があると推計されています。
子宮頸がんは、ワクチン接種と定期検診の受診によってしっかり予防することができます。
ここでは、この子宮頸がんの予防についてお話していきます。
この記事は、予防医療普及協会理事・産婦人科医の三輪綾子先生監修のもと作成しております。

<INDEX>
- 子宮頸がんは若い世代で増加傾向に
- ほとんどの子宮頸がんはウイルス感染が原因
- ワクチンで悪性の強いHPV感染を予防できる
- HPVワクチンは3種類。どう違うのか
- ワクチンの安全性は証明されている
- 何歳までだったらワクチンを打つべきなのか
- 20歳を超えたら2年に1度は子宮頸がん検診を受けよう
- 【まとめ】子宮頸がん予防のためにできること
子宮頸がんは若い世代で増加傾向に
子宮頸がんは、子宮の入り口である子宮頸部(しきゅうけいぶ)にできるがんのことです。子宮の月経を起こしている(胎児の部屋となる)部分である子宮体部にできる子宮体がんとは別の病気です。
子宮頸がん、子宮体がんを総称して、子宮がんと呼ばれます。
年間約10,000人が新たに子宮頸がんと診断されており、初期(0期)の「上皮内がん」を含めると、その数は年間約34,000人に上ります。[1]
他の臓器にできるがんと異なり、20〜40代の比較的若い世代で患者が年々増加しているのが特徴です。
死亡者数も年々増加傾向にあり、2019年のデータでは年間約2,900人の方が亡くなっています。[1]
ほとんどの子宮頸がんはウイルス感染が原因
ごく一部のまれなケースを除けば、ほとんどの子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)の感染が原因です。
このHPV、これまでに180種類くらい見つかっていて、今でも続々と発見されています。
そしてこのウイルス、男女共に感染します。
皮膚や粘膜の接触によって感染し、性交渉では子宮頸部や陰茎に感染する可能性があります。
見つかった順に番号がつけられるのですが、悪性度が強いのが16型と18型。このタイプによる感染は、日本における子宮頸がん全体の約6割を占めます。
HPVは、女性の場合は子宮頸がん、腟がん、外陰がん、男性は陰茎がん、男女問わず中咽頭がんや肛門がんの原因になります。
他には、6型や11型は、男性の陰茎・陰囊、 女性の陰唇・腟などの性器周囲、肛門周囲に鶏冠状の”イボ” ができる尖圭コンジローマという厄介な性病を引き起こしたりします。
HPVはいわゆる「性感染症」とは大きく異なる点が2つあります。
- 感染の機会が多い:HPVはごくありふれたウイルスであるため、性交渉の経験がある男女のうち50%〜80%はHPVに感染する機会があると推計されています。
- 感染=発症ではない:HPVに感染するだけでは自覚症状はなく、2年以内に約90%はやがてウイルスが体から自然に排除されます。ただし、1〜2年の間にウイルスを排除できず持続感染となってしまった人の一部は、数年間潜伏したウイルスが軽度異形成、中程度異形成、高度異形成という段階を踏んで前癌状態へと進行します。ただ、高度異形成になった場合でも、半分くらいは自然治癒します。それでも、そのうちの数%がさらに数年を経て子宮頸がんへ進行することがあります。
【妊娠を考える方にお伝えしたいこと】HPVは分娩時に産道感染します。HPVの母子感染で特に問題になるのは若年発症型の「再発性呼吸器乳頭腫症」という病気です。尖圭コンジローマの原因となるHPV6型と11型が関係し、赤ちゃんが産道を通る時に喉から肺にかけての粘膜に感染します。 若年型再発性呼吸器乳頭腫症というのは、小児の喉から肺にかけてイボが多発する病気で、治療は主に外科的切除です。この病気で厄介なのは、いくらとってもまた再発してくるところです。イボができる場所やその数によっては気道閉塞を起こし、命に関わります。
ワクチンで悪性の強いHPV感染を予防できる
悪性の強いHPVへの感染は、ワクチンで予防することができます。
このワクチンは女性の場合、小学校6年生から高校1年生まではワクチン接種が公費で助成されていますが、対象年齢を過ぎていても、自費でのワクチン接種は可能です。費用の目安は5〜10万円程度と高額ですが、将来的な感染リスクとワクチン接種のメリットを考えての判断となると思います。
ワクチンの接種は性交渉の経験をする前(初交前)が一番効果があります。一方、性体験後でも、6、11、16、18型の全てに同時感染している可能性は極めて低いので、HPVワクチンを接種する意義は十分あるといえます。
ワクチンは、すでに感染しているHPVを排除したり、ウイルスが自然と排除されるまでの期間を短縮したり、進行してしまった病変の治療を行うことはできません。あくまで感染を予防する役割を果たします。
HPVワクチンは3種類。どう違うのか
日本で接種可能なワクチンは、サーバリックス、ガーダシル、シルガード9の3種類です。違いは下記の通りです。
今年から日本でも発売となったシルガード9の接種により、約60%の原因を占める16型と18型に加え、日本人の子宮頸がんに多いとされる52型と58型のHPV感染も予防できます。
HPVワクチンの有効期間は20年以上といわれていますが、データが十分でないため、現在は様子見の状態です。ただ、早く導入した国だと、10年間は十分に効果を保っているというデータは確認されています。
ワクチン接種が可能な場所は下記のサイトから検索できます。
ワクチンの安全性は証明されている
「子宮頸がんのワクチン」と聞くと、数年前に話題になった”副反応問題”に関するニュースを思い出す方がいらっしゃるかも知れませんが、現在では、安全性は調査によりすでに証明されています。
副反応の疑いとして挙がった症状は、HPVワクチンを接種したあとに、歩行困難や自らの意思とは関係なく勝手に体が動くような不随意運動、漢字の読み書きや計算ができなくなるような認知機能の低下、生理不順などが見られたものです。これを受けて、薬害に発展する可能性を懸念した厚生労働省は2013年6月に、ワクチンの接種推奨を取り止めました。
しかし、世界保健機関(WHO)では、世界中の最新データを解析した結果として、HPVワクチンの安全性を認める結論を発表しています。WHOや日本産科婦人科学会は、一刻も早いワクチン接種を求める声明を出しています。
加えて2018年には、3万人を対象にした調査(通称、名古屋スタディー)において、HPVワクチンの接種と、副反応とされた24症状とは関連がないことが明らかになりました。
日本におけるHPVワクチンの接種は、ピーク時は70%程度だったのに対し、現在は1%未満にまで低下しています。この状況は一刻も早く解消されるべきです。
予防医療普及協会理事、医師・医学博士・産婦人科専門医 稲葉可奈子先生が発起人となり、署名活動を行なっています。応援・ご協力をお願いいたします。
『子宮頸がんは予防できる』という情報が届けられていない日本の女性を救いたい!
何歳までだったらワクチンを打つべきなのか
無料でワクチンが接種できる定期接種期間を過ぎた場合、何歳までだったらワクチンを接種すべきなのかーーこの問いに対する明確な答えはありません。ワクチンは将来的な感染を防ぐ目的で接種が望ましいので、もっとも有効なのは性交渉の経験がない時点です。
ただ、米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention : CDC)は、26歳以下で、HPVワクチンの接種経験がない場合、男女ともにワクチンを接種すべきだと推奨しています。27歳から45歳の男女に対しては、将来的な感染HPVリスクとワクチン接種の利点、双方をよく考え、医師とも相談の上でワクチンを接種するかどうか判断して欲しいと呼びかけています。[2]
性交渉のパートナーが双方で長期にわたり固定されている場合は、新たなHPVへの感染リスクは低いです。ただ、パートナーがHPVに感染しており、その状態が持続している場合、ご自身も感染リスクにさらされることになる点に注意が必要です。新たな性交渉のパートナーを迎えると、その度にHPV感染のリスクにさらされます。個人の事情を鑑み、選択されることをおすすめします。
20歳を超えたら2年に1度は子宮頸がん検診を受けよう
二次予防である早期発見・早期治療を行うためには、子宮頸がん検診を受診しましょう。
厚生労働省では、20歳以上の女性に対して2年に1度の検診を推奨しています。自治体による公費負担も受けられます。
子宮頸がん検診では、組織の細胞をとって調べる「細胞診(さいぼうしん)」という検査を行います。この検査で前がん病変や早期がんのうちに見つけて円錐切除術などの治療をすれば、それ以上の進行を防ぐことができます。
<円錐切除術のイメージ>
2020年7月からは、子宮頸がん検診のガイドラインが更新され、新たにHPVの感染を調べる検査方法(HPV検査単独法)も検診の選択肢に加わりました。検査間隔の推奨は5年間で、医師による検体採取が原則となります。自己採取による検査精度は、「医師によるものと比べて大幅に低下するわけではない」とされていますが、受診率が下がる可能性が懸念されたり、国内でのエビデンスが不足しているなどの理由から、今後更なる研究が必要とされています。また、偽陽性が増える可能性にも注意が必要です。[3]
子宮頸がんが進行してから見つかる方も多いのも事実です。日頃忙しくしていて、不正出血などの違和感があっても放置してしまい、婦人科を受診したときにはがん細胞が広がった状態になっていることも。そうなると、子宮全摘出は避けられません。
HPVワクチンを接種した人も検診は受けましょう。ワクチン接種により100%の子宮頸がんが予防できるわけではありません。9価ワクチンでは約85%、2価・4価ワクチンでは約60%の子宮頸がんを予防できるものの、ワクチンで予防できないHPVへの感染などの可能性を排除することができないためです。検診間隔はワクチンを接種していても2年に1度という頻度は変わりません。定期的な検診が重要です。
【まとめ】子宮頸がん予防のためにできること
子宮頸がんの約60〜85%はHPVというごくありふれたウイルス感染が原因です。特に悪性の強い16型、18型への感染を予防するためにも、HPVワクチンの接種が有効です。
このワクチンは性体験前の接種が一番有効ですが、性体験後でも、感染すると厄介な6、11、16、18型のHPV全てに感染している可能性はほぼないに等しいため、未感染のウイルスには有効です。ただ、ワクチン接種は自費での任意接種の場合高額になるため、ご自身のご年齢やパートナーとの関係などを考慮し、新たにHPVに感染するリスクとワクチンから得られるメリットのそれぞれを考慮しながら、ワクチン接種をご判断いただければと思います。
また、20歳を超えたら子宮頸がんの検診を少なくとも2年に1度は受診しましょう。ワクチンだけで全ての子宮頸がんを予防することは難しいため、検査による早期発見、治療が重要です。
お届けする内容は以上です。
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出典
[1] 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」
[2] Center for Disease Control, "HPV Vaccine Recommendations", "Human Papillomavirus Vaccination for Adults: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices"
[3] 国立がん研究センター「科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する『有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン』更新版公開」(2020年7月29日)
<その他参考にさせていただいたサイト>
・公益社団法人日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」(http://www.jsog.or.jp/uploads/files/jsogpolicy/HPV_Q%26A.pdf)
・公益社団法人日本産科婦人科学会 http://www.jsog.or.jp
・公益社団法人日本産婦人科医会 http://www.jaog.or.jp
・予防接種推進専門協議会 http://vaccine-kyogikai.umin.jp
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【文・図表作成 倉光めぐみ / 編集協力 安江志保、戒能果林】